2006年 9月 19日

ハチとアブとブユ

投稿者 by vulcan at 13:28 / カテゴリ: 育児 / 0 コメント / 0 TrackBack

都内でも、秋になるとアシナガバチに時々遭遇しては、威嚇されることがありますが、毎年30件ぐらいのハチによる死亡事故が報告されるそうで、本日も『スズメバチに100カ所刺され、77歳女性死亡』というニュースがありました。100箇所刺されれば死亡に至るのは容易に想像できますが、数箇所刺されただけで死亡する事故も報告されており、過去に刺された経験を持つ者は『アナフィラキシーショック』により、一撃でショック死する場合があることは有名な話です。

ちょっと前に、幼稚園で、園内に飛翔してきたハチをたたいて殺し、解決を図ったということを聞き、「そんなことをして大丈夫なのか?」という疑問を持ちましたが、知識が無ければ適切な行動なのかどうかの判断もできません。

先日は、ハチの話ではないのですが、ふれあい動物園でヤギを追い掛け回し、威嚇する小学生を見て、かなり危険を感じました。

昨年から、家族で山に行く機会も増えてきましたので、大自然を前にして人間が守らなければ身を危険にするルールについて調べてみようと思いました。そんなわけで、とりあえず、ハチについて俄か知識を仕込みました。

山にいるとき、人間によってくるものは、大抵アブであろうと思いますが、ハチとアブの区別を、まずは子供に教えたいところです。アブはハチに似ているという固定観念があり、実際『擬態』という特性が存在するため、アブを見てもアブだと断定することを留保したくなるときというのがしばしばあります。

アブは分類学上『ハエ目』なだけに速い印象があり、口にストローみたいなのがついていて、目がトンボみたいに不釣合いなほど大きいと感じます(要するにハエっぽいわけです)。こうした印象に基づく区分は、比較的黒っぽいアブを見分ける場合には役に立ちそうですが(というか、これらをハチだと思っているようだと区分するなどというのは絶望的な試みでしょう)、黄色が目立つアブに対しても確信を持ってアブだと判定できるかどうかは自信がありません。

一方、ハチは、いくつかのハチの写真を見れば分かるように、目と尻、また腰の細さに特長があるようです。要するにアリの仲間なのでアリっぽいわけですが、両目が離れており、腰のくびれが美しく、尻の先が尖っています。

アブとハチの比較サイトを見ると、かなり納得がいきます。速すぎて、色や形を見極められなくとも、ブンブンと攻撃的な音を鳴らしながら、単独で執拗に追い掛け回してくるのはまず間違いなくアブと思って良さそうです。吸血が目的であるということは、恥ずかしながら知りませんでした(縄張りを荒らしたから怒らせてしまったのかと思っていました)。

アブについては理解できましたが、山で刺されるほとんどは、アブよりもブユである場合が多いと思います。威嚇的な羽音が聞こえなかったのに、気がつけば蚊に食われたのとは明らかに違う赤く腫れた傷口ができていることに気がつくことが多いからです。そこで、これを機会にブユについても調べてみました。

ブユは2~3ミリぐらいの小さな昆虫で、朝夕に集団で襲ってくるようです。刺すのではなく、かじって血を吸うため、吸い口がかじられた穴が開いているケースは、ブユと思って良さそうです。ゴルフをする人はよく襲われているようなので、今更な話かもしれません。

まあ、アブやブユで死ぬようなことは無いでしょうが、問題はハチです。一歩間違えれば笑い話ではすまない危険があるわけなので、丹念に調べてみました。

ハチについては、主に、スズメバチとミツバチ、クマバチ、アシナガバチの4種について知識を深めるのが良いと感じました。

一番誤解していたのはクマバチ(クマンバチ)です。クマンバチという名前から来る印象により、危険なハチだとばかり思っていました。完全に安全とは言い切れませんが、「オスは針が無いので刺せない」「温厚な性格で人間に関心は無い」「単独生活なので集団で襲われる危険が無い」ということが分かったことは収穫でした。

さて、スズメバチです。スズメバチに刺されないようにするためには、巣に近づかないことで、10メートル以内に踏み込むと威嚇してくるようなので、速やかに立ち去るべきです。左右の大顎を噛み合わせて打ち鳴らし、「カチカチ」という警戒音を出し威嚇する段階になるとかなりヤバイ状況です(ナウシカに出てきた蟲みたいですね)。

黒や青を認識するそうで、特に黒い服は避けた方が良いようです。大型哺乳類の弱点の多くが黒い部分(瞳孔、耳孔)にあることから黒を狙うと考えられているようで、頭も狙われやすく、白系の帽子をかぶった方が賢明のようです。香水も、スズメバチを興奮させる成分が含まれている場合が多いようで、山に香水を付けて行くのは自殺行為かもしれません。

気になったのは、「山などで団体で行動している時に最初に刺されるのは、蜂蜜を常用している者に多いことも確認されている。 」という説明です。体臭から蜂蜜の香りを放っているからなのか、蜂蜜を持ち歩いている者が狙われるという意味なのかが判然としませんが、前者のような気がします。

ところで、当初は「スズメバチに刺されないようにするためにはどうすればよいか」ということが興味の中心だったのですが、スズメバチの社会的な行動に興味が移りました。

オオスズメバチは最も危険なスズメバチらしいのですが、様々な昆虫がたくさん存在する夏は、獲物にこと欠きませんが、秋口になると獲物が激減し、攻撃性を増すそうです。この週末に山に行ったとき、1ヶ月前とは比較にならないほど虫が減っており、「過ごしやすくなったなぁ」と暢気に考えていましたが、危険も増していたということです。

オオスズメバチは「スズメバチ類としては例外的に集団でミツバチやキイロスズメバチといった巨大なコロニーを形成する社会性の蜂の巣を襲撃することで、この必要をまかなう。」そうで、「大量の生きた蛹や幼虫を肉団子にしつつ運び出す」ことで餌の不足を補うようです。

ところがこれも口でいうほど簡単ではないようで、小型のキイロスズメバチの巣を襲撃した場合、数が圧倒的に多いキイロスズメバチとの死闘は相当激しいものとなるそうです。うまく全滅させるか逃走させれば、それだけ大量の蛹や幼虫を得ることができるわけで、ハイリスク・ハイリターンの獲物ということが言えそうです。外骨格の装甲が極めて強靭なチャイロスズメバチは攻撃が奏功せず、撃退されることも珍しくないようです。

そして、ミツバチを襲った場合ですが、ミツバチはスズメバチの集団を撃退する術を持ち合わせていませんが、相手が単独飛行の偵察者である場合は、蜂球による対処が行なわれているようです。つまり、ミツバチが集団でオオスズメバチを取り囲み、約20分で摂氏45度まで熱くさせ、熱死させるという技です。スズメバチは死ぬが自分たちは死なないギリギリの温度のようで、うまくできているなぁと感心しました。これに失敗して、巣の在処が伝わってしまい、スズメバチの集団に襲われると、ミツバチは戦うことをせずに、巣を放棄するそうです。

但し、蜂球ができるのはトウヨウミツバチに限られるようで、養蜂に利用されるセイヨウミツバチは蜂球ができず、そのため、スズメバチへの対抗手段を持たず、野生化が成功していないと言われています(北米ではスズメバチがいないのか野生化に成功しているようです)。

キイロスズメバチの来襲
蜂球によるミツバチの防戦
蒸し殺されたキイロスズメバチ

さて、次に、ミツバチですが、「一度刺すと死ぬ」「威嚇しなければ安全」ということで、すっかり安全なハチだと思い込んでいましたが、基本はそうでも留意しなければならない点もあるようです。というのも、蜂の巣の駆除を依頼する場合、スズメバチが4万円、ミツバチが3万円、アシナガバチが3千円というのが相場としてあるようで、アシナガバチの10倍危険である可能性があるからです(10倍手間が大きいということかもしれませんが)。

その理由は、恐らくミツバチのコロニーが大きいということから起因するもので、数千匹にも達する場合には危険も大きいということかもしれません。

最後にアシナガバチですが、飛翔時に足がブランと垂れ下がっているのですぐに見分けがつくと思います。あまり攻撃的ではないようですが、そうは言ってもやはり怖いです。役所もアシナガバチについては、防護服等を貸し出し、自分で駆除する人を支援しているようで、夜間、慎重に実施すれば対処可能なのかもしれません。

昨年、会社の非常階段にアシナガバチの巣ができ、業者に頼んで7,620円で処理してもらい、帳簿上福利厚生費で処理しました。そのとき業者の人が、「最初の一撃で女王蜂と護衛の蜂が真っ先に逃げる。女王蜂については死に物狂いで守ろうとするので、女王蜂を捕獲することは危険であり、それは諦めて欲しい。但し、巣のあった場所に殺虫剤をかけておくので同じ場所に巣を作り直すことは無いはず。偵察部隊は女王蜂がどこに逃げたのかを知らず、巣があった場所に何匹か戻ってくる場合がある。彼らは巣とともに女王を失い、じきに消える。」と言っていました。

そういったわけで、奥の深い蜂の世界ですが、「かつては社会性昆虫であるかどうかの判断は、群れに階層があるかどうかであったが、現在では不妊の階層があるかどうかが重視される。」という社会性昆虫に関する分野が特に面白いと思いました。

そんな中で見つけた山根爽一氏の『アシナガバチ一億年のドラマ ―カリバチの社会はいかに進化したか』は、目次を見ても非常に面白そうで、ちょっと読んでみたい本です。

第 1章  子育ての技術革新―社会生活への長い道のり
      1  カリバチとハナバチ
      2  植物食から寄生生活へ
      3  他人のすみかを借用する―巣作りの起源
      4  自分で巣をつくる―建築家の誕生
      5  狩りに先立って産卵する―空室産卵

第 2章  独居と社会生活の接点を探る―ハラボソバチの社会
      1  熱帯アジアの隠遁生活者
      2  忍耐のいる行動観察
      3  メリイヒメハラボソバチのルーズな社会
      4  母巣で働いてから独立する娘たち
      5  ハラボソバチは真社会性といえるか

第 3章  個人主義か集団主義か―独立創設するアシナガバチ
      1  独立創設と巣分かれ創設
      2  温帯のアシナガバチの生活史
      3  複数のメスによる巣作り―多雌創設
      4  債権交代で延命するチビアシナガバチのコロニー
      5  巣を分割するオーストラリアのチビアシナガバチ
      6  独力で創設するか,集団に加わるか

第 4章  コロニーの巨大化―巣分かれ創設するアシナガバチ
      1  アシナガバチ類の巣分かれ創設
      2  旧世界のチビアシナガバチの生活
      3  南米で分化したエピポナ類
      4  巣分かれ創設はいかに進化したか
      5  巣分かれ創設と表裏一体の多女王制

第 5章  カースト分化―社会組織の完成度の指標
      1  カーストの違いは,まず行動にあらわれる
      2  カースト間の形態的分化
      3  カースト分化の様相とその意味

第 6章  建築技術のイノベーション―構造の多様性と進化
      1  ハチの巣は魅惑のかたまり
      2  ハラボソバチの巣のみごとな分化
      3  細い柄で吊り下げ,「化学の鍵」をかける
      4  住居の育児環境を快適に保つ
      5  巣材と建築技術は社会進化を左右する

第 7章  カリバチの社会はいかに進化したか
      1  社会進化の古典的仮説―栄養交換説
      2  子をつくらずに自分の性質を伝える―血縁選択理論
      3  みんなで集まれば怖くない―協同的多雌性仮説
      4  どの身のふり方が有利か―ギャンブル仮説
      5  異世代社会と同世代社会―社会進化の道すじ

さて、こうして知識を多少なりとも深めた段階で、先日の幼稚園の対処を再検討してみますと、
「ハチではなくアブであった可能性があり、それであれば叩いて殺したのは正しい」
「ハチであったとしても、巣が近くにないのであれば、集団で襲ってくることは無さそう」
「たまたま通りかかった単独飛行のハチであるならば、帰巣させずに殺すというのもミツバチと同じく適切な防衛方法かもしれない」
ということです。

但し、逆に、我々がハチのエリアに踏み込み、単独飛行だからといって攻撃しようとすれば、巣の近くなので、危険が瞬時に伝わり、集団で襲ってくるでしょう。したがって、10メートル以内(つまり幼稚園内)に巣が存在するはずが無いことを知り尽くした幼稚園の先生であるからこそできることであり、正当化されることだと思いました。

なお、スズメバチは人間が殺される危険性を持ちますが、益虫でもあることは留意しておく必要があると思います。物事を一面だけで決め付けることは正しい理解とは言えません。

日本でも一部の地方自治体で、駆除依頼で都市部の住宅地などから捕獲したスズメバチ類の巣を庁舎屋上に設置した巣箱で飼育して維持しつつ、人に危害が及ばないように森林公園の害虫駆除に活用しているケースがあるし、茶の大産地の静岡県の一部では、茶の害虫をクロスズメバチ類によって抑制することで減農薬を図るため、クロスズメバチの幼虫、蛹を食べる習慣が盛んな隣接する長野県からの越境採集者に対して、捕獲禁止を訴えているケースもある。

正しい蜂の刺され方(刺されたくない人は必見)

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