2006年 10月 14日

『進化し続ける経営』北尾吉孝

投稿者 by vulcan at 23:35 / カテゴリ: 存在理由 / 0 コメント / 0 TrackBack

本書は、北尾氏の十八番である『経営』に関する書であるため、内容は非常に充実しています。『経営』に関して、北尾氏の足元にも及ばない私が解説しても無益でしょう。しかしながら、いくつか思うところと留意すべきところがあると考えますので、それを書き留めておきたいと思います。

本書は、タイトルが示すように、「企業は進化し続ける不断の努力が必要であり、それを怠れば衰退するか、崩壊する」ということが示唆されています。これは、言葉で言うのは簡単ですが、『改善』といった生易しいことを指しているのではなく、めまぐるしいほどのパラダイムの転換が求められており、それに伴った犠牲や痛みも小さくありません。そして、それを、実際に実行し、今も実行し続けているところが北尾氏のすごいところだと思います。

とはいえ、「北尾氏のやることなすこと全てが正しい」と賛美しているわけではありません。しかし、彼の正義感及び信念の強さには畏敬の念を覚え、自分というものを捨て切っているのであろうことが窺い知れますので、彼のとった行動を非難するつもりはなく、私の信念と反している部分も、情勢を鑑みると止むを得なかったと理解します。

「株主価値を高めることができればストックオプションの価値も上がり、役職員のモラルを高めることにつながる」と述べた箇所があります。成長を加速させるためにストックオプション制度を導入するというのは、確かに一つの考え方です。ストックオプションというのは優秀な人材を獲得するには即効性があるのは事実でしょう。そして、SBIグループはストックオプションの導入を効果的に活用して優秀な人材を短期間で増大させたのだと思いますし、彼らの期待を裏切らない企業価値の向上が達成され、貢献に報いたと思います。

しかしながら、ストックオプションは、本場アメリカでも「Fuck you money(Fuck youと言って、積年の恨みを晴らしながら立ち去るために必要なお金)」と言われているように、モラルを高めることにつながるとは思えません。「仕事に対するモチベーションが上がる」というのも、かなり限定的だと考えており、効果があるのは付与時だけだと思います。付与した途端に既得権となってしまうからです。

そもそも、ストックオプションというのは会社の株を売却することが前提です。つまり、会社との縁を切る行為が組み込まれた仕組みであり、縁を切るタイミングが明確に自覚できます。

ストックオプションについての私の考察と対案をここで展開するのは、多くの人には眠い話ですし、まだまだ独りよがりな説に過ぎませんので控えますが、「モラルはストックオプションによって高まるものではない」ことだけは断言したいと思いました。

次に、グループ会社の上場戦略についても、肯きにくい点がありましたが、やはり、企業の成長を加速させるためには、やむをえなかった措置と理解します。現に、今では、パラダイムを転換し、十分肯ける上場戦略となっているようです。

私が直感的に最も危惧を抱いたのは、『コングロマリット戦略』でした。しかし、これを、比類のない経営センスによって見事に達成したことが良く理解でき、天晴れと言うほかありません。ジョイントベンチャー方式を活用しながら子会社を短期間に次々に設立し、それらの子会社を100%子会社化させて指揮命令系統を明瞭にすることで成長を促し、更なるグループの成長加速のために早期上場を果たしてキャピタルゲインを得、得た資金で買収・合併による成長を遂げ、急激な成長による弊害としての拡散したグループを引き締めるために、事業持ち株会社から純粋持ち株会社に移行させるというダイナミックな企業運営を極めて短期間に実現させたのは、まさに神業であり、北尾氏でなければなし得なかったのではないかと思います。

ところで、私が非常に留意しなければならにと感じた点は、「北尾氏が自分を捨て切っている」点です。あくまでも北尾氏を突き動かしているのは正義感であり、彼の私欲ではありません。ここを見落とすと、本書の読者は猿真似をして必ず失敗するでしょう。

私欲によって行動している限り、上記のような度重なるパラダイムのシフトやダイナミックな企業運営は「理念がない」とか「一貫性がない」とか「場当たり的だ」と言って内外から非難されて崩壊するのは火を見るように明らかです。外野から非難されるのはさしたる問題にはならないにせよ、内部からの非難が大きくなりすぎると事は甚大です。

北尾氏が正義のために自分を捨て切っているがゆえに、部下にとってはたとえ不本意だとしても、北尾氏についていくのであり、ついていくことが結果的に部下にとっての本意となるのでしょう。ここにも武士道精神に流れる真正たる義理、「正義の道理」の本質を見ることができると思います。

ただし、やはり私は、主に次の二点において危惧せざるを得ません。

一つは、北尾氏以後のSBIグループがどうなっていくのかです。この点については、北尾氏も危惧しており、人材の育成に力を入れていますが、果たして、北尾氏ほどのスーパーな人間が見出せるかどうかというと心もとないように感じてしまいます。

もう一つは、時価総額を標榜している以上、やはりいつか破綻するのではないかという危惧です。加速度的に成長できる時期、規模というのはあり、それは、トップの器によって違いますので、何年間、幾らが一般に妥当かという議論は無駄ですが、足るを知らざれば、無間地獄に陥るわけで、どこかで時価総額主義を捨てなければならないと思います。まあ、北尾氏ほどの人物であれば、そのようなことはとうに承知の上であり、次の長期戦略では時価総額主義を廃してくるかもしれませんが、この転換は痛みも相当大きなものになるだけに、生半可な舵取りではかえって命取りとなってしまいます。

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