2006年 10月 25日

教育基本法案比較検討(2)

投稿者 by vulcan at 15:44 / カテゴリ: 雑感 / 0 コメント / 0 TrackBack

引き続き、「義務教育」、「大学(高等教育)」、「私立学校」、「家庭教育」、「地域教育」、「生涯学習」、「障がい児教育」、「職業教育」、「政治教育」、「宗教教育」について所見を述べてみたいと思います。

義務教育

現行法(教育基本法)

第四条(義務教育)
 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
2 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料はこれを徴収しない。

政府案(教育基本法案)

第五条(義務教育)
 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第七条(普通教育及び義務教育)
 何人も、別に法律で定める期間の普通教育を受ける権利を有する。国民は、その保護する子どもに、当該普通教育を受けさせる義務を負う。
2 義務教育は、真の主権者として民主的で文化的な国家、社会及び家庭の形成者を育成することを目的とし、基礎的な学力の修得及び体力の向上、心身の調和的発達、道徳心の育成、文化的素養の醸成、国際協調の精神の養成並びに自主自立の精神の体得を旨として行われるものとする。
3 国は普通教育の機会を保障し、その最終的な責任を有する。
4 国は、普通教育に関し、地方公共団体の行う自主的かつ主体的な施策に配慮し、地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえつつ、その地域の特性に応じた施策を講ずるものとする。
5 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授業料は徴収せず、その他義務教育に関する費用については、保護者の負担は、できる限り軽減されるものとする。

政府案、民主党案ともに9年の年限が外れており、大きな相違点は、国家に最終責任が存することを謳っているか否かです。これは、小沢一郎氏の『小沢主義(イズム)』を読めば分かることですが、「現行法下では教育の責任の所在が明文化されておらず、それが、教育の現場を混乱させる元凶となっている」との信念に基づいた条文です。

進んで責任を取り、明文化せずとも「武士に二言は無い」と約束を守りきる武士道の精神が旺盛に生きているのであれば、この条文を盛り込むことは恥としなければなりませんが、責任を押し付け合い、あるいは、お互いにかばいあって責任の所在をうやむやにする、また、「記憶に無い」と、記録されたものが無いことをいいことに都合の悪いことは無かったことにしてしまう、あるいは積極的に記録を隠蔽する現在の官僚体制や政治家の姿勢に鑑みると、必要な条文であることを、不承不承認めざるを得ないと考えます。

大学(高等教育)

現行法(教育基本法)

対応する条文なし

政府案(教育基本法案)

第七条(大学)
 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2 大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第八条(高等教育)
 高等教育は、我が国の学術研究の分野において、その水準の向上及びその多様化を図るとともに、社会の各分野における創造性に富む担い手を育成することを旨として行われるものとする。
2 高等教育を行う学校は、社会に開かれたものとなるよう、職業人としての資質の向上に資する社会人の受入れの拡大、地域、産業、文化、社会等の活性化に資する人材の養成を目指す関係者との連携等を積極的に図るものとする。
3 高等教育については、無償教育の漸進的な導入及び奨学制度の充実等により、能力に応じ、すべての者に対してこれを利用する機会が与えられるものとする。

「日本の高等教育における家計の負担比率は約6割であり、アメリカ3割、ヨーロッパ平均1割、スウェーデン0割と比べ、日本が著しく高い状況」とのことです。

我が家は子供が3人おり、最低でも4人、できれば5人でも6人でも子供が欲しいと思っていますので、高等教育に対する、『無償教育の漸進的な導入及び奨学制度の充実等』は、個人的には非常にありがたいと思います。

但し、方向性としては、奨学制度の充実で対応してもらい、意欲ある者の教育の機会を広げることを優先して欲しいと思います。

私立学校

現行法(教育基本法)

対応する条文なし

政府案(教育基本法案)

第八条(私立学校)
 私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第九条(建学の自由及び私立の学校の振興)
 建学の自由は、別に法律で定めるところにより、教育の目的の尊重のもとに、保障されるものとする。国及び地方公共団体は、これを最大限尊重し、あわせて、多様な教育の機会の確保及び整備の観点から、私立の学校への助成及び私立の学校に在籍する者への支援に努めなければならない。

私立学校のモラルをどう規律するかが難しいと思います。しかし、義務教育の最終的な責任を国家が負うことを明文化することにより、国家は私立学校といえども、モラル違反に対しては積極的に関与することが可能となると考えます。

政府案では私立学校の自主性を尊重することが謳われていますが、これに対して民主党案は建学の自由を保障しています。あくまでも、国家事業として教育に取り組む以上、私立学校といえども、モラル違反には厳しい姿勢で介入することが筋だと考えます。

家庭教育

現行法(教育基本法)

第七条第一項(社会教育)
 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。

政府案(教育基本法案)

第十条(家庭教育)
 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第十条(家庭における教育)
 家庭における教育は、教育の原点であり、子どもの基本的な生活習慣、倫理観、自制心、自尊心等の資質の形成に積極的な役割を果たすことを期待される。保護者は、子どもの最善の利益のため、その能力及び資力の範囲内で、その養育及び発達についての第一義的な責任を有する。
2 国及び地方公共団体は、保護者に対して、適切な支援を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、健やかな家庭環境を享受できないすべての子どもに対して、適当な養護、保護及び援助を行わなければならない。

一義的の字義は『いちばん大切な意味をもっているさま。根本的。第一義的。』です。まさに教育の一義的な責任が保護者にあることを明記した点で、政府案、民主党案いずれも評価できますが、本来であれば、そのようなことは条文に明記せずとも当たり前のことであり、それを明記せざるを得ない世の中というのが悲しむべき現実の姿です。

なお、民主党案は、一義的という字句解釈の不当な拡張を危惧してか、『その能力及び資力の範囲内』という制限を付しており、より望ましい表現だと思います。

地域教育

現行法(教育基本法)

[再掲]第七条第一項(社会教育)
 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。

政府案(教育基本法案)

第十三条(学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力)
 学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。

民主党案(日本国教育基本法案)

第十一条(地域における教育)
 地域における教育においては、地域住民の自発的取組が尊重され、多くの人々が、学校及び家庭との連携のもとに、その担い手になることが期待され、そのことを奨励されるものとする。

これも当たり前のことを条文に盛り込まなければならない悲しい現実の姿です。

生涯学習

現行法(教育基本法)

[再掲]第七条第一項(社会教育)
 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
(社会教育)第七条
2 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。

政府案(教育基本法案)

第三条(生涯学習の理念)
 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。
(社会教育)第十二条
 個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
2 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第十二条(生涯学習及び社会教育)
 国及び地方公共団体は、国民が生涯を通じて、あらゆる機会に、あらゆる場所において、多様な学習機会を享受できるよう、社会教育の充実に努めなければならない。
2 国及び地方公共団体が行う社会教育の充実は、図書館、博物館、公民館等の施設と機能の整備その他適当な方法によって、図られるものとする。

あまり比較しても仕方の無い条文ですが、生涯学習を法律で規定しなければ安心できない国民性とはなんとも幼稚だと感じます。

障がい児教育

現行法(教育基本法)

対応する条文なし

政府案(教育基本法案)

[再掲]第四条(教育の機会均等)
2 国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第十三条(特別な状況に応じた教育)
 障がいを有する子どもは、その尊厳が確保され、共に学ぶ機会の確保に配慮されつつ自立や社会参加が促進され、適切な生活を享受するため、特別の養護及び教育を受ける権利を有する。国及び地方公共団体は、障がい、発達状況、就学状況等、それぞれの子どもの状況に応じて、適切かつ最善な支援を講じなければならない。

ここでは、民主党案に『尊厳』という言葉が使われている点に注目しています。政府案が『十分な教育』という表現なのに対し、民主党案は『適切かつ最善な支援』とありますが、この点は、何を持って十分とするか、何を持って適切かつ最善とするかを明確にすることはできず、どちらも大差は無いと考えます。

障害を有する子どもの尊厳を確保するというのは、教育基本法においても規定するに値する事項だと考えます。なぜなら、現状の障害者教育の現場では、明らかに障害者の尊厳を無視した(暴力的)行為が現存しているからです。

職業教育

現行法(教育基本法)

対応する条文なし

政府案(教育基本法案)

対応する条文なし

民主党案(日本国教育基本法案)

第十四条(職業教育)
 何人も、学校教育と社会教育を通じて、勤労の尊さを学び、職業に対する素養と能力を修得するための職業教育を受ける権利を有する。国及び地方公共団体は、職業教育の振興に努めなければならない。

職業教育が教育基本法で規定すべき事項であるとは思いません。この規定は生涯教育の中で盛り込むべではないかと考えます。

政治教育

現行法(教育基本法)

第八条(政治教育)
 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

政府案(教育基本法案)

第十四条(政治教育)
 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第十五条(政治教育)
 国政及び地方自治に参画する良識ある真の主権者としての自覚と態度を養うことは、教育上尊重されなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

本条文は、歴史的には、学校現場での特定の政党支持が行なわれてきたことによる行き過ぎを反省して作られたものと考えられ、現状の社会的要請によるものではないと考えれば、政府案のように一字一句現行法を踏襲することも一理あると思います。しかしながら、『主権在民』という自覚が薄れつつある社会に鑑みると、社会的要請が存在すると考えることもでき、民主党案は評価できると考えます。

宗教教育

現行法(教育基本法)

第九条(宗教教育)
 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

政府案(教育基本法案)

第十五条(宗教教育)
 宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

民主党案(日本国教育基本法案)

第十六条(生命及び宗教に関する教育)
 生の意義と死の意味を考察し、生命あるすべてのものを尊ぶ態度を養うことは、教育上尊重されなければならない。
2 宗教的な伝統や文化に関する基本的知識の修得及び宗教の意義の理解は、教育上重視されなければならない。
3 宗教的感性の涵養及び宗教に関する寛容の態度を養うことは、教育上尊重されなければならない。
4 国、地方公共団体及びそれらが設置する学校は、特定の宗教の信仰を奨励し、又はこれに反対するための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

我が国において、古来から、教育の現場で宗教を取り上げるという習慣は無かったと思います。それは、家庭における宗教教育が十分に行き届いていたからです。しかし、戦後、我が国では宗教に対する態度を明確にすることが難しくなり、それは家庭においても同様となりました。この結果、我が国における伝統的宗教は壊滅的な打撃を受けていると考えます。

西洋では、宗教は倫理観の根源であると考えられており、宗教教育は教育の現場で積極的に行なわれていると聞きます。一方日本では、家庭や地域社会において、倫理教育そのものが実践されていたわけです。その根本となる思想は、武士道、つまり、大和魂であったと私は考えます。

しかしながら、武士道は廃れてしまいました。したがって、現代において、伝統的宗教の知識を教育することは二つの理由で意義があると考えます。一つは、キリスト教などは宗教そのものに倫理観が備えられているため、倫理観の向上が期待できるというものです。しかしこれは実際にはなかなか思うようには効果が出ないでしょう。もう一つは、儒教、神道、仏教が封建制度とあいまって武士道を生み出したことに鑑みると、宗教教育の充実により、新たな日本の誇るべき精神が生み出しうるかもしれないからです。こちらは、時間のかかることですが、大いに期待したいと思います。

そういう意味で、踏み込んだ条文である民主党案は、時代の要請だと考えます。


民主党コメンタール

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